相続した宅地から公道までの間に、登記上の地目が「公衆用道路」の細長い土地が挟まっていることがあります。「公衆用道路に接しているのだから道路に面している」と考えてよいのか、それとも無道路地として評価するのか、あるいは特定路線価を設定して評価するのか。判断の決め手は「地目」ではなく 建築基準法上の接道義務を満たしているか です。本ページは特定の個人・法人の事案とは無関係の一般的な解説です。
1. 「無道路地」とは ― 物理的に道に接していても該当しうる
無道路地とは、単に「道路に接していない宅地」だけでなく、道路に接していても接道義務を満たしていない宅地を含むものとされています(財産評価基本通達20-3、国税庁タックスアンサーNo.4620)。
ここでいう接道義務とは、建築物の敷地は 建築基準法上の道路に間口2メートル以上接しなければならない という建築基準法43条1項の要件です。したがって無道路地かどうかは「物理的に何かの道に接しているか」ではなく、「建築できる状態か(接道義務を満たすか)」で判断されると考えられます。
2. 「地目=公衆用道路」と「建築基準法上の道路」はまったくの別物
ここが最大の落とし穴です。登記簿上の地目「公衆用道路」は土地の利用状況の分類にすぎず、それだけでは建築基準法上の道路であることを意味しません。建築基準法上の道路とは、次のようなものを指します(建築基準法42条)。
| 区分 | 内容(主なもの) |
|---|---|
| 42条1項1号 | 道路法上の道路(国道・都道府県道・市区町村道などの公道で幅員4メートル以上) |
| 42条1項2号 | 都市計画法・土地区画整理法などによる道路(幅員4メートル以上) |
| 42条1項5号 | 位置指定道路(特定行政庁の位置指定を受けた幅員4メートル以上の私道) |
| 42条2項 | いわゆる「みなし道路(2項道路)」(幅員4メートル未満だが特定行政庁が指定した既存道路) |
市が所有し地目が公衆用道路の土地は、多くの場合 市道(道路法上の道路) である可能性を示唆します。市道で幅員4メートル以上なら通常は42条1項1号に該当します。ただし、市有地でも法定外公共物(里道・赤道など)で建築基準法上の道路に当たらない場合や、幅員が4メートル未満で2項道路の指定も受けていない場合があり得るため、地目だけで判断せず道路種別の確認が欠かせません。
3. 判断の分かれ目(フローで整理)
Q1. 接している公衆用道路は「建築基準法上の道路(42条各項)」に該当するか?
該当しない → 接道義務を満たさず 無道路地評価(20-3) の方向。
該当する → Q2へ。
Q2. その道路に対象地の間口は2メートル以上接しているか?
2m未満 → 接道義務を満たさず 無道路地評価(20-3) の方向。
2m以上 → 無道路地ではない。Q3へ。
Q3. その道路に路線価が付されているか?
付いている → その路線価を正面路線価として通常評価。
付いていない → 特定路線価(14-3)を税務署に申し出て設定し、正面路線価として通常評価。
つまり「公衆用道路に接している」だけでは結論は出ず、まず道路種別(建築基準法上の道路か)と間口(2メートル以上か)を確定させることが、評価方法を決める前提になります。
4. 無道路地として評価する場合(評価通達20-3)
接道義務を満たさない場合は無道路地として評価します。手順の概要は次のとおりです。
- 実際に利用している路線(路線価の付いた最寄りの路線)の路線価を基礎に、まず不整形地補正等(想定整形地を描き、かげ地割合から不整形地補正率を求め、間口狭小補正・奥行長大補正なども適用)を行った価額を求めます。
- そこから、接道義務を満たすために必要な通路開設部分の価額を控除します。控除額は 「正面路線価 × 通路部分の地積」で計算します(奥行価格補正などの画地調整は行いません)。
- 想定する通路は、接道義務を満たす最小限の幅(原則2メートル)で、公道へ最短で結ぶ形で想定するのが一般的です。
「40パーセント」は控除する割合ではなく「上限」
よくある誤解ですが、20-3の40パーセントは「評価額の40パーセントを控除する」という意味ではありません。控除する実額はあくまで通路部分の価額であり、それが評価額の40パーセントを超える場合に40パーセントで頭打ちになる、という上限の定めです。
5. 特定路線価を使う場合(評価通達14-3)
路線価地域内で、路線価の設定されていない道路のみに接する宅地を評価する必要があるときは、納税義務者の申出などに基づき、税務署長が評定した特定路線価を設定してもらい、それを正面路線価として通常の宅地と同様に評価できます(財産評価基本通達14-3)。この場合、無道路地の40パーセント控除は行いません。
特定路線価の押さえどころ
- 設定は任意です(申し出るかどうかは納税者の選択)。実務では「特定路線価設定申出書」を税務署に提出します。
- ただし、特定路線価を設定する道路自体が建築基準法上の道路であることが前提とされ、建築基準法上の道路でない私道や極端に幅員の狭い道には設定が認められない(申出が却下されうる)とされています。
- 路線価のない道路のみに接する宅地について、無道路地としての画地調整による評価よりも特定路線価による評価の方が合理的と判断した裁決があります(平成15年5月21日裁決・裁決事例集65号703頁)。ただしこの裁決は、その道路が建築基準法上の道路に該当することを前提とした事案であり、射程はその範囲に限られる点に留意が必要です。
6. 実務での確認手順(まとめ)
- 接する公衆用道路が建築基準法上の道路(42条の何項何号か)に該当するかを、市区町村の建築指導課・道路管理課(道路管理者)に照会する。
- 対象地の接道間口が2メートル以上あるか、道路の幅員が4メートル以上か(2項道路ならセットバックの要否)を確認する。
- その道路に路線価が付されているかを確認し、なければ特定路線価の要否を検討する。
- 建築基準法上の道路に該当し間口2メートル以上なら無道路地ではなく、路線価がなければ特定路線価を設定して評価。該当しない・間口不足なら無道路地評価(20-3)。
- 2項道路に接する場合は、将来のセットバック部分について評価上の減額の要否も検討する。
要するに、「公衆用道路に接している」ことと「接道義務を満たしている」ことは別です。地目に引きずられず、道路管理者への照会で道路種別と間口を確定させてから、無道路地か特定路線価かを選ぶ、という順序が安全と考えられます。
主な参照:財産評価基本通達14・14-3(特定路線価)・20(不整形地)・20-3(無道路地)/ 建築基準法42条・43条1項 / 国税庁タックスアンサーNo.4620 無道路地の評価 / 平成15年5月21日裁決(裁決事例集65号703頁)